筆記具大学 万年筆研究科

このブログは、万年筆へ興味を持っていただけたらなと思い開設しました。染色が織りなす美しさや各種吸入式の構造美など楽しんでいただけたら幸いです。

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カクノを用いた各吸入式の研究 総集編①

写真上から
プランジャー式 未投稿
回転吸入(ピストン)式 本稿3-3-6
クレセント式 本稿3-3-4
レバー式   本稿3-3-3
インキ止め式 本稿3-3-2
セイフティ(繰り出し)式 未投稿
標準(改造前)


【要約】
 本論文?はパイロット社製カクノ透明軸を用いて各種の吸入式を再現,製作し,万年筆の楽しさや奥深さ,先人の知恵や技術などを体験することを目的に,著作権なしで公表いたします.本研究では,ホームセンターやインターネット通販で入手できる材料を使用して,アイドロップ式,インキ止め式,レバー式,クレセント式,ボタン式,ピストン式,プランジャー式,バキューマティック式,タッチダウン式,スノーケル式についての再現および製作方法についてまとめてあります.今後,より実用的な製作方法や新たな吸入式の開発などにもお役立てできれば幸いです.
 改造は自己責任でお願いいたします.


[キーワード] 吸入式,身近に手に入る材料,理屈抜きで楽しもう 


1.はじめに
 カクノはとても素晴らしい万年筆です。定価1000円でありながらも,ネジ部の正確さや胴軸内の空洞の真円さ,透明のきれいさ,インクフロー,とにかく改造にぴったりの万年筆です。
 カクノの先行改造事例ではアイドロップ式が多く見られました.また,胴軸を新規に製作して改造する計画もございました.そこで,先行改造事例にはまだ登場していない各種吸入式をカクノで再現し製作しようと考えました。


2.研究方法
①各種吸入式へ改造するための材料は,原則,ホームセンターやインターネットショッピングで購入できるものを組み合わせています(一部シリコンサック,Jバーなど特殊なものもございますが,その場合は代用品をできるだけ掲載してあります)。
②各種吸入式の再現・製作にあたり,万年筆メーカーがインターネットで公開している模式図や所有している万年筆(ペリカンデモンストレータなど)を参考にしています。
③部品名をミスしていたり,サイズを間違えたり,勝手にアップグレードしたり…ということもございますので,その際はご指摘ください.
④楽しんで製作してください。
⑤ケガに注意してください。


3.各吸入式の製作方法
3-1.各部定義


図1. カクノ各部の名称の定義


3-2.共通材料・大体共通道具
3-2.1.共通材料

 カクノ本体,プラ製座金
3-2-2.大体共通道具類
 UVレジン(ハードタイプ), ブラックライト,注射器,アロンアルファEXTRA耐衝撃,シリコンOリング(ゴム製可),シリコングリース,デザインナイフ(カッター可),ホビーのこぎり,紙やすり(#120,#240,#320),ホビー用半円ヤスリ,丸型ヤスリ,平ヤスリ,ラジオペンチ,ニッパー,極太輪ゴム


3-3.各種吸入方法の再現・製作方法
3-3-1.アイドロップ式
ⅰ材料・道具

 共通材料・大体共通道具の他に,シールテープ(水道用)。
ⅱ再現・製作過程
①胴軸
 胴軸おしり側には空気穴が2ヶ所設置されています.この穴を詰める必要があります.詰め方は,胴軸外側からUVレジンを内側に向かって2mmほど注入する.このとき,あまり注入しすぎないことがポイントです.注入後,紫外線を照射し,硬化させます.次に胴軸の内側へUVレジンを注入します(厚さはお好み)。このとき,注射器を用いて行うと綺麗に仕上がります。


②首軸
 首軸部の作業は2つあります.
 まず,首軸内部のペン先側にUVレジンを注入し,首軸とペン先ユニットの隙間を埋めてしまいます(図2灰色部)。

 このとき,UVレジンがペン芯やインクガイド(突起物)に付着しないように注意してください(写真1)。気泡の様子を見ながら少しずつ注入すると綺麗にできます。その後日光で硬化させてください。強力なブラックライトで一気に硬化させたところ,白濁してしまいました。

写真1 首軸内側(ペン芯との間)へのUVレジンの注入


 次に首軸のネジ部には,シールテープを2周巻きます(写真2)。2周以上になると,胴軸を取り付けた時に割れる恐れがあります.ネジ部にシールテープを巻き付け後,ネジ部以外のはみ出たシールテープはデザインナイフなどで切り落としてください。巻き付け後,ネジ部にシリコングリスを少量塗布してください.また,シールテープは消耗品です。インキ吸入の数回に1回は張り替えて下さい。

写真2 首軸部ネジ部へのシールテープ貼り付け
点線部は余分なシールテープのカットライン


3-3-2.インキ止め式
ⅰ材料・道具

 プラ座金(M5;2枚,M4;2枚,M3;3枚),シリコンOリング(外径6mm;2個,外径9mm;1個),アルミ棒(外径3mm;長さ7.5cm),E型止め輪(E2,E2.5 各1枚),割り箸1膳。
ⅱ再現・製作過程
①首軸

 まず,アイドロップ式同様に,首軸とペン芯の隙間にUVレジンを注入し,隙間を埋めます(方法は3-2-1.アイドロップ式 ⅱ再現・製作過程 ②首軸 の記述を参照下さい)。
 次にプラ座金(M4;1枚)を首軸の同軸側にアロンアルファで接着します。接着は点でなく面で行ってください。
 硬化後,紙やすりで接着プラ座金の周囲を削り,首軸のネジ部の上部とプラ座金の外側の太さが同じになるように調節します(写真3)。マスキングテープで削りたくない部分を保護するときれいに仕上がります。
 内側の円を半円ヤスリで少し削り(最大5mm程度),内径を広げます。このとき,図3のようにプラ座金の内径を斜めに削ると良いかと思います(効果不明ですが…)。削り終わったら,内部をブロアーや注射器で洗浄してください。

写真3 プラ座金の貼り付けと削り出し

図3 プラ座金内径の削り方(断面図)


 最後に首軸のネジ部にシールテープを2周巻いてください。


②胴軸
 インキ止めでは胴軸から尾栓部を製作します。また,切断した胴軸のおしり側は完璧な防水処理が必要になります。
 胴軸のおしり側末端部より2cm(末端部補強の手前までであれば,どこを切っても構いません)のところをホビーのこでまっすぐ切断します。カクノは六角形ですので,1面ずつ切っていくと正確に切断できます。また,切断するラインはマスキングテープなどでガイドを作っておくとキズの防止にもなり便利です。切断後,紙やすりで切断面を平らになるように仕上げてください。ここをいい加減にしてしまうと見た目や防水機能も悪くなってしまいます(尾栓部の製作は③を参照)。
 次に胴軸のおしり側に防水区画を設置します。まず内側の防水壁を,プラ座金(M4;1枚)の外径を胴軸のおしり側の内径に合うように紙やすりで削ります。その後,胴軸の首軸側から割り箸1本を挿入し,胴軸のおしり側から削ったプラ座金(M4)を挿入し,アロンアルファで接着します。このとき,プラザ座金は胴軸末端部から3mm位のところに設置してください(図4)。

図4 内側防水壁の設置


 外側の防水壁(尾栓と接触するところ)は,プラ座金(M5,M3 各1枚)を組み合わせて作ります。M5のプラ座金の穴の近くに少量のアロンアルファを数滴垂らしておき,M3のプラ座金を貼り合わせます。このとき,内側の円が同一の幅になるようにしてください(図5)。貼り付け後,M5のプラ座金の外経を胴軸おしり側の外周と同じ太さになるように紙やすりで1mm程度確認しながら削ってください。


   

  上部から見た図    側面から見た図
 実線:M5プラ座金   実線:M5プラ座金
 点線:M3プラ座金   点線:M3プラ座金
  図5 外側の防水壁の製作


 シリコン製Oリング(外径6mm,外径9mm 各1個ずつ)を用いてインクを防水します。外径9mmのOリングの内側に外径6mmのOリングを挿入します。そのできた2重Oリングを胴軸おしり側から挿入します。挿入後,外側の防水壁と胴軸おしり側をアロンアルファで接着します(図6)。       

  尾栓側


図6 防水区画の組立
③尾栓1
 切り出した胴軸の末端部を尾栓にします。
 まず,末端部には空気穴が2ヶ所と中央に窪地があります。この窪地の中心にピンバイスで2mm程度の穴を垂直に開けます。貫通後,丸型棒ヤスリで3mm程度まで広げます。
 次にプラ座金(M5;1枚)の外周を紙やすりで胴軸の外周と同じくらいになるように削り,その後M3のプラ座金を接着ます。


④インキ止め機構の製作
 シャフトにはアルミ丸棒(外径3mm)を7.5cm程度に切断して使用します。
 まず,首軸側のアルミ棒にプラ座金(M3;1枚),Oリング(外径6mm;1個)の順に入れておきます(図7)。
 先端より5mmのところを半円棒ヤスリの角で深さ0.5mm前後で1周削り,E型止め輪(E2)をラジオペンチで嵌めます。その後,E型止め輪で止まる位置までOリングとプラ座金を調整します。
 Oリングの上部はUVレジンで2回程度に分けて三角錐のように固定します(図7)。

図7 インキ止め機構の製作


④仮組み
 胴軸の防水区画(おしり側)のシリコンOリングとインキ止め機構のアルミシャフト部にシリコングリスを少量塗布します。
 胴軸にインキ止め機構を装填し,胴軸に首軸を装着します。胴軸おしり側から出てきたアルミシャフトに,尾栓の製作で加工したプラ座金(M5が胴軸側,M3が尾栓側)を装着し,最後に尾栓を装着します。
 インキ止め機構を作動させている状態(インクの流量をカットオフしている)にし,尾栓と顔をのぞかせているアルミシャフトが水平になる位置をマークして,一旦分解します(図8)。分解後,半円棒ヤスリでマークした部分を0.3mm前後削り,再び組み立てます。組立後,尾栓後部の削ったアルミシャフトのところにE型止め輪(E2.5)をラジオペンチで嵌めます。


図8尾栓末端部のアルミシャフト固定位置


⑤尾栓2
 尾栓とアルミシャフトをホットグルーで固定します。
 ます,尾栓外側から空気穴2ヶ所ホットグルーを注入して塞ぎます。次に尾栓内側にホットグルーを注入します。注入中,シャフトを回転させながら行うとホットグルーを満タンに近い状態で装填できます。装填後,加工したプラ座金で固定します。この時,多少ホットグルーが溢れることがあります。熱いので注意してください。取り除く際は,半分硬化した時に行うときれいにはがれます。
 最後に,尾栓末端部より顔をのぞかせるアルミシャフトとE型止め輪にUVレジン液を塗布して硬化させます。ケガの防止,止め輪の脱落を防ぎます。


3-3-3.レバー式
 根気と集中力と運がうんと必要な吸入方式です。
ⅰ材料・道具
 シリコン製サック(CON-20などのゴムサックで代用可),Jバー(市販のリボン鋼の幅5mmで代用可),1.0mmピアノ線(ゼムクリップ代用可),アクリル丸棒(直径3mm),パイロット純正カートリッジ1本,ピンバイス(1.2mm, 1.0mm, 0.6mm),割り箸1膳。


ⅱ再現・製作過程
①サックユニットの製作・取り付け

 サックはデリケートですので,爪を立てたりして傷をつけないようにお願いいたします。
 カートリッジに充填されているインクを抜き,洗浄・乾燥します。その後,カートリッジの首軸側から2.2cmくらいのところを切り落とします。使用するものは首軸側2.2cmのものになります。それ以外は使用しません。
 サックは長さ6cmくらいにします。これよりも短い場合はそのまま使用ください。
 カートリッジとサックを接着します。接着にはセメダイン スーパーXを使用します。接着剤は各々に5mm程度塗布し,数分から10分程度経過してから貼り合わせてください。
 貼り合わせたあと,サックのユニットを首軸へ装着し,胴軸を取り付けでください。胴軸のおしり側がサックに干渉しなければOKです。その後,同軸を取り外して,首軸にサックユニットが付いていう状態で乾燥させてください。
 乾燥後,首軸を水に浸し,手でサックをつまんだりして吸入・排出できるか試験してください。


②レバーの製作
 レバーは制作することもレバーユニットを取り付けることも可能です。今回は製作について取り上げます。
 アクリル丸棒(直径3mm)を長さ2.5cmにカットします。お好みで全体を少し紙やすりで梨地のように仕上げます。首軸側となる方に末端部を角棒ヤスリで斜めに削っておきます(図9)。

図9 レバー部首軸側末端部のヤスリがけ処理


③Jバーの製作
 Jバーは入手することも可能ですが,幅5mmのリボン鋼を加工して製作することも可能です。
 リボン鋼を長さ8cm程度に切り,長さ6cmのところで90°程度に折り曲げます。折り曲げ部から1cm離してもう一度折り曲げます。こうすることでJ(つの字)になります。なお折り曲げ時は一気に折り曲げてください。おっかなびっくりやっていると割れてしまいます。
 最後に切断面のバリ取りや角を丸めて完成です。まだ同軸には挿入しないでください。


④胴軸の加工
 胴軸の加工はとても大変です。ピンバイスの他,電動ルーターがある方はご使用ください。
 胴軸の加工は2段階あります。1段階目はレバー部を収納するための四角穴(レバーボックス)。2段階目はレバーと胴軸を連結するピンの穴(ドリフト)です。
 レバーボックスは,筆記時の状態(ペン先がテヘペロを確認できる)で胴軸に穴を開ける面を選択します。ただし,カクノの個体によっては,多少,面が前後する場合があります。これはクレセント式も同様です。
 面を決めたら,レバーボックスを開ける位置を決めます。穴の位置は,胴軸のネジ部(首軸側)から2.6cm,胴軸おしり側から2.1cm,穴あけの長さ2.6cm,幅3mmの範囲になります(図10)。マスキングテープなどでガイドを作ることや胴軸内に割り箸を挿入してから穴あけをすると,やりやすくキズ防止になるかと思います。

図10 胴軸に四角い穴を開ける位置


 穴あけにはピンバイス(直径1.2mm)を用いて図10の灰色部を穴をあけていき,デザインナイフとヤスリがけによって仕上げる方法と,電動ルーターのダイヤモンドカッター等を用いて開けてる方法があります。どちらの方法でも構いません。ただし,電動ルーターは素材と刃の摩擦熱で樹脂を変形させることがあります。気をつけてください。穴あけおよび切断後は,ヤスリがけ(四角棒ヤスリや紙やすり)を行い,②で製作したレバーが挿入できるように整えてください。
 レバーボックスが完成後,胴軸内に割り箸を再度挿入し,②で製作したレバーをレバーボックスの上から挿入します(レバーの前後,上下の向きに注意してください)。レバーがボックスの面から1mm前後露出するようにします。
 レバーをピンで固定する穴(ドリフト)はレバーの首軸側から7mm(図11-1),ボックス面から-1.5mm~2mmの左右の位置に印をつけてピンバイスで穴を開けます(図11-2)。

Fig.11-1. 胴軸を上から見た図


Fig.11-2. 胴軸の断面図(首軸側)
図11ドリフト穴の開ける位置


 位置合わせをした後,セロハンテープや透明なビニルテープでレバーと胴軸,割り箸を固定し,動かないようにします。ピンバイスでの穴あけは,0.6mmなどの径が小さいもので先にガイド穴を開けていきます(曲がったビットを使用するとえらい目に遭うので気をつけてください)。この方が早く穴を開けられるだけでなく,確認しながら正確にまっすぐ嵌入できると思います。その後,1.0mmの穴を開けるときれいに仕上がります。


⑤レバーの取り付け
 ドリフト穴を貫通後,ピアノ線1.0mm(ゼムクリップ代用可)を7mm程度に切断し,切断面を棒ヤスリで研磨します。その後,ドリフト穴から慎重に挿入してください。このとき,慎重にやってもレバーが折れる恐れがあります。


⑥組立
 無事にレバーが胴軸に固定されたあと,組立ができます。
 ③で製作したJバーを胴軸へ挿入します。このとき,胴軸のレバーがある面にJバーのバネ面がくるようにしてください。何度も出し入れをすると胴軸内部が傷だらけになります。
 最後に首軸一式を胴軸と組み合わせれば完成です。


3-3-4.クレセント式
ⅰ材料・道具

 シリコン製サック(CON-20などのゴムサックで代用可),アクリル管(①外径21mm×内径18mm,②外径16mm×内径12mm),パイロット純正カートリッジ1本,アクリル板(厚さ1mm,
アクリル製下敷き代用可)。


ⅱ再現・製作過程
①サックユニットの製作・取り付け

 サックの取り付けは,3-3-3.レバー式 ⅱ再現・製作過程 ①サックユニットの製作・取り付け
を参照して下さい。なお,クレセント式のシリコンサックの長さは,6.5cmに変更になります。


②クレセントとリングの製作
 クレセントはアクリル管の外径21mm×内径18mmを使用します。アクリル管を幅3mmで切断します。切断後,紙ヤスリで切断面を平らにしてください。その後,管の高さは5mmの半円(かまぼこ型)になるように再度切断します。こちらも同様に切断面を平にしてください。
 次にアクリル板(厚さ1mm)を5mm幅で長さ4.7cmに切断します。切断後,四隅の角を丸くなるようにヤスリがけをしておきます。
 接着は首軸側とおしり(尾栓)側でアクリル板の長さが異なるようにします(図12)。接着はアロンアルファ 対衝撃用またはアクリル樹脂接着材を使用して接着します。接着面積が小さいため,接着後は十二分に時間を置いてから使用してください。


図12 クレセントの接着位置


 クレセントが不意に動くことを防ぐリングは,アクリル管(外径16mm×内径12mm)を幅8mmで切断し,紙やすりで切断面を平にします。また,リングの外側の角も少し削り,手に当たった時の不快感を軽減させます。不快感が気になる方は,幅を3mmにするなどして調整してください。研磨後,リングを3mmほど切断しCの字にしておきます。この時もヤスリがけを施してください。


③胴軸加工
 胴軸の加工は,サックの取り付けは,3-3-3.レバー式 ⅱ再現・製作過程 ①サックユニットの製作・取り付け と要領は同じです。ただし,開口する穴の大きさと位置は違うのでご注意ください。
 開口部は,筆記時の状態(ペン先がテヘペロを確認できる)で胴軸に開口部の面を選択します。ただし,カクノの個体によっては,多少,面が前後する場合があります。これはクレセント式も同様です。
 面を決めたら,開口部の位置を決めます。胴軸のネジ部(首軸側)から3.1cm,胴軸おしり側から2.6cm,開口部の長さ2.0cm,幅3mmの範囲になります(図13)。この開口部よりも長さを長くする場合や位置を変更する場合,筆記時に胴軸へキャップを嵌められなくなる場合があるので注意してください。マスキングテープなどでガイドを作ることや胴軸内に割り箸を挿入してから穴あけをすると,やりやすくキズ防止になるかと思います。
 

図13 胴軸の開口部(クレセントの場合)


 開口後,C型のリングが機能しやすいように,棒ヤスリ(四角)を用いてガイド(溝)を製作します。溝は,首軸側の開口部より3mm後方から8mm(幅8mmのC型リングの場合,幅3mmであれば3mm)棒ヤスリ(四角)で削ります(図14)。
 削る時は,胴軸の6つの角を削るように往復で15回程度削ります。面の部分は削らなくても結構です(図15)。
研磨後にシリコングリスを少量塗布してください。

図14 C型リングの溝の位置

図15 棒ヤスリによる角の研磨(胴軸断面図)


④組立
 組立は,まず胴軸にC型のリングを取り付けます。取付後,開口部とC型リングの割れ目を合わせておきます。次に,胴軸の解雇王部が下に来るようにし,内部にクレセントを挿入します。このとき,クレセントの前後(首軸側短い方)に気をつけてください。クレセントは,針金や割り箸などで突っつきながら,開口部から胴軸外側へ露出させてください。この状態でリングを動かして問題がないようであれば首軸一式を胴軸に取り付けてください。もし,リングが固い場合やうまく作動しない場合は,再度研磨して調整してください。


3-3.各種吸入方法の再現・製作方法
3-3-5ボタン式
ⅰ材料・道具

 シリコン製サック(CON-20などのゴムサックで代用可),パイプキャップ(径12mm),ボタン(昔のパーカーデュフォールド),Iバー(6.5cmくらい),プラ座金(M4,M5各1枚)
ⅱ再現・製作過程
①サックユニットの製作・取り付け
 サックの取り付けは,3-3-3.レバー式 ⅱ再現・製作過程 ①サックユニットの製作・取り付け
を参照して下さい。なお,ボタン式のシリコンサックの長さは,5cmに変更になります。


②胴軸
 胴軸はお尻側の末端部より約1.2cmのところをプラのこぎりで切断し,尾栓キャップとします。切断後,尾栓キャップや胴軸側はヤスリ掛けしてください。
 M4とM5のプラ座金を図5のように重ねて張り合わせてください。その後,胴軸の切断面(尾栓キャップではない)に貼り合わせたプラ座金を貼り合わせてください。このとき,M4のプラ座金が尾栓キャップ(外)側になるように貼り合わせてください(図16)。

図16 プラ座金の貼り合わせ


④組立
 サックを取付けた首軸を胴軸に取付けます。その後,胴軸のおしり側よりIバーを挿入します。このとき,Iバーの先端でサックを傷つけないようにしてください。Iバーの先端が首軸に当たる位置で止めます(図17)。見栄えをさらにアップされたい場合は,Iバーのプレス部がペン先の表と反対(Iバーがプレス部が下部)になるようにすると見栄えはいいです。Iバーの固定位置を確認後,ボタンをり付けてください。

図17 Iバーの固定位置
 パイプキャップ(径12mm)に尾栓キャップを封入します(図18)。

図18 透明キャップに尾栓キャップの封入
 最後に,図18でできた尾栓を胴軸のおしり部に挿入すれば完成です。


⑤ご注意
 組立完成後に分解する場合は,ボタンを外し,Iバーを取り出してから,胴軸と首軸をねじってください。Iバーが挿入されえている状態でねじってしまうと破損します。


3-3-6.ピストン式
ⅰ材料・道具

 コンバータ(ペリカン社製),プラ座金(M4;2枚,M5;2枚),シリコン製Oリング(外径8mm,太さ1.9mm);1個,プラネジ(M3;1本),シールテープ(水道用)。


ⅱ再現・製作過程
①胴軸の切断

 胴軸はお尻側の末端部より約2.3cmのところをプラのこぎりで切断し,尾栓とします。切断後,尾栓や胴軸側はヤスリ掛けしてください。


②コンバータの分解
 ペリカンのコンバータを分解します。分解は金属部をゴムでつまみ,回転させると外せます。外した回転部と螺旋棒,ピストン部を使用します。


③首軸の加工
 首軸は,3-3-2.インキ止め式 ①首軸加工と同様です。


④ピストンユニットの製作
 分解したコンバータのピストン棒を加工し,回転つまみ部と螺旋収納部を流用して,ピストンユニットを製作します(写真4)。
 分解したコンバータの螺旋棒のピストン弁(シール部)を切断し,螺旋棒後方よりM3のプラワッシャーを挿入しアロンアルファで固定します(写真4-1,2)。M4のプラワッシャーは,カクノ胴軸内径よりも小さくなるように1~2mm程度外周を削り,M3プラワッシャーの後方に貼り付けます(写真4-3)。その後,M4プラワッシャー後方をアロンアルファで厚盛塗布し,固定します(写真4-4)。

写真4 コンバータピストン弁部の加工


 アロンアルファ乾燥後,ピストン部を正面にして,螺旋棒の中心に直径2mm,深さ5mm程度の穴をピンバイスで空けます。穴にアロンアルファを少量塗布し,シリコン製Oリング(外径8mm,太さ1.9mm)を装着し,M3のプラワッシャーでサンドします。
 次にプラネジ(M3)の螺旋(ネジ)部を3㎜程度残して切断し,断面を少しならしてから穴に締め込み,固定します(写真5)。このとき,カクノ胴軸に挿入し,ピストン弁が機能するか確認しながら締め付けてください。

写真5 ピストン弁の取付け


 最後にコンバータの回転つまみと螺旋棒収納部を再度挿入してピストンユニットの完成です。


⑤ピストンユニットの取付
 M5プラワッシャーを加工します。1つは外径を1.5mm程度,内径を回転つまみ部が入るように削ってください(A)。2つ目は内径を螺旋棒収納部が入るように削ってください(B)。
 製作したピストンユニットの螺旋棒収納部と回転つまみ部にM5のプラワッシャー(A,B)を取り付けます(写真6)。Aは回転つまみ側に,Bは螺旋収納部側から挿入して,アロンアルファで固定してください。このとき,回転つまみ部と螺旋収納部の間に貼り付けないようにし注意してください。

写真6 プラワッシャーの取付
左:胴軸側 螺旋収納部 (A)
右:尾栓側 回転つまみ (B)


 次に胴軸とピストンユニット(螺旋収納部)のワッシャー部(B)をアロンアルファで仮止めします(写真7)。仮止めでなく,本止めとしても構いません(次作業でUVレジンがない場合)。

写真7 胴軸とピストンユニットの仮止め


 胴軸を立て,首軸側からUVレジンをシリンジで慎重に深さ0.8~1㎝程度入れ,空気を抜いてならし,紫外線で硬化させます。硬化後,はみ出したM5ワッシャーをカットして形を整えます。


⑥尾栓取り付け
 ピストンユニットの回転部と尾栓(①胴軸で切断したもの)を結合させます。これには,ホットグルーを使用します(写真8)。
 まず,尾栓の末端に穴が2か所空いているので,ホットグルーで塞ぎます(少量で結構です)。
 硬化後,尾栓部を立て,ホットグルーを流し込みます。約8分目まで注いだら,ピストンユニット回転部を挿入します。このとき,慎重に中心がなるべくずれないよう挿入してください。ずれてしまった場合,慌てず調整してください。はみ出たグルーは冷却硬化後,切り取り完成です。

 写真8 尾栓の取付


4.考察
4-1.各吸入式の理解

 再現した各種吸入式は,ホームセンターやインターネット通販サイトで入手できるものであり,汎用性の高いものを使用しています。したがって,加工や組み立てを最小限に抑えることができます。加えて,透明軸のカクノは,透明であることが最大のメリットであり,普段目にすることが難しい各吸入式の機構を目にすることができ,だれでも簡単に万年筆の各吸入式について学び,体験を通じて,先人の知恵の結集のひとつである万年筆のインク吸入の歴史を理解することが可能となりました。
4-2.実用性
 再現した各吸入式のカクノは,メンテナンス性にも優れています。つまり,インクに関するトラブルや吸入機構上のトラブルが発生しても,簡単に分解することが可能です。さらに,汎用性が高い部品を使用しているからこそ,部品交換や部品の入手もしやすい利点があります。
 通常,カクノはインクカートリッジまたはコンバータを使用する両用式であるが,そのインク供給量は,1回当たり0.数㏄程度であります,しかし,各吸入式を再現したカクノは,その数倍から10倍以上のインクを供給することが可能となり,カートリッジ交換やインク吸入の手間がなくなります。
4-3.所有欲
 相対的に万年筆は両用式よりも吸入式の方が高価である傾向があります。また,他人とは一味違った各吸入式に再現されたカクノは,その所有欲に火を点火させるに違いないと考えています。


5.むすびに
 本研究では,透明のカクノを用いて各吸入式を再現しています。楽しみながら万年筆とインク吸入の歴史を学ぶことができ,多くの方に万年筆の面白さや楽しさをお伝えすることができれば幸いと思います。
 最後に,これだけポテンシャルの高い万年筆「カクノ」を開発,製造されているパイロット社に深い敬意と今後,ますますの発展を楽しみにしております。


※改造は自己責任でお願いいたします。なお,改造された万年筆は保証対象外となります。ご注意ください。また、誤字、脱字はご了承ください。



(初版 2017年9月2日投稿分)
(第2版 2017年9月13日校正・掲載分)
(第3版 2018年5月5日加筆分)




マダム・カクノ

本日、5月8日(金)24時20分よりタモリ倶楽部に出演いたします!
ぜひ、ご笑覧いただければ幸いです。


さて、初期のカクノ染色作品に「マダム・カクノ」という作品がございます。こちらは、2017年10月22日に完成、公表した作品です。


何をオマージュしたかと言うと、
ー冬の宵闇が明ける空を見上げて ー
 北関東の冬のキンと冷えた夜明けが始まる頃の星空とオリオン座。夜の街から一人のマダムがロールスロイスで帰宅するそんな優雅さを表現しています(言い過ぎ( ´∀` ))。


 こちらの作品は、染色といわゆるデコ・カクノと呼ばれる軸に立体的な装飾を組み合わせた作品です。つまり、透明なカクノに色と立体感を融合したカスタマイズの先駆的な一例です。


製作方法
第1工程
 まず、水色と紫の染色液を用いたグラデーション染色を施しました。今回は、染色とデコレーションの融合ですので、染色は少し濃いめです。また、紫色を強く表現したかったので、赤と水色による紫でなく、調合済みの紫を使用しています!

ルビー色のスワロ( ´∀` ) 


第2工程
 染色後、タミヤカラーのラッカークリアを吹き、クリアが乾かないうちに金属粉(金・銀)を蒔きます。その工程を数回繰り返します。蒔き方も金属粉の多~少のグラデーションや金と銀のグラデーションとなるようにしています。キャップや胴軸の尻側をご覧ください。


 金属粉が蒔き終わったら、十分に乾燥させてからオリオン座をイメージして、クリアのスワロを貼り付けます。
最後にタミヤカラーのラッカークリアを軽く吹いて、乾燥させます。


 それでは、完成版のマダム・カクノです(*´ω`*)

マダム・カクノの全体像。CON-50が懐かしい( ´∀` )

金属粉のグラデーション。
胴軸尻側にもスワロ(*^^)v こちらは月をイメージ。

いかがでしょうか?

クリアのスワロ オリオン座を表現しています。

筆記時の状態です。


 私にとって染色×金属粉によるデコレーションの組み合わせは、これが最初で最後の作品です。
 なぜ最後かって? 大変手間暇かかるのです(*´ω`*)


 今後は作家さん同士でコラボレーションしても面白いかもしれません(*´ω`*)


 さて、次回はマダム・カクノの姉妹品、乙女カクノをご紹介しましょう!。